大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)923号 判決

上告人 徳永京

被上告人 徳永広文 外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人津島宗康の上告理由第一点について。

原判決が、農地の所有権移転を目的とする法律行為は都道府県知事の許可を受けない以上法律上の効力を生じないものであり(農地法三条四項)、この場合知事の許可は右法律行為の効力発生要件であるから、農地の売買契約を締結した当事者が知事の許可を得ることを条件としたとしても、それは法律上当然必要なことを約定したに止まり、売買契約にいわゆる停止条件を附したものということはできないとしたことは正当である。

そして、かりにいわゆる法定条件にも性質のゆるすかぎり民法の条件に関する規定の類推適用あるものとしても、原判決が、上告人と被上告人徳永広文との間の本件農地売買契約について、たとえ、被上告人徳永に所論のような条件の成就を妨げる行為があつたとしても、民法一三〇条の規定の適用によつて、右売買契約が効力を生じて上告人が本件農地の所有者となつたものとすることはできない、従つて上告人が既に右農地の所有者となつたことを前提とする上告人の本訴請求は理由がない旨判示したことは正当である。何となれば、農地の売買は、公益上の必要にもとずいて、知事の許可を必要とせられているのであつて、現実に知事の許可がない以上、農地所有権移転の効力は生じないものであることは農地法三条の規定するところにより明らかであり、民法一三〇条の規定するような当事者の「看做す」というがごとき当事者の意思表示に付する擬制的効果によつて、右農地所有権移転の効力を左右することは性質上許されないところであるからである。

また論旨引用の大審院判例は事案を異にし、いわゆる法定条件に関するものでなく本件に適切でない。

同第二点について。

所論仮処分決定が既に判決によつて取消されたことは原判決の確定するところであつて、かりに右仮処分決定を取消す判決に所論のような瑕疵があつたとしても、既に確定した右判決が所論のように無効となるものでないことは勿論である。論旨引用の諸判例は、すべて右判旨の妨げとなるものではない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

上告代理人津島宗康の上告理由

第一点 原判決は条件付法律行為に関する民法第百二十七条乃至百三十条の規定の解釈適用を誤つて之に違反し且右法条の解釈適用に関する大審院の判例に違反し因つて上告人を敗訴させたものである。

原判決は「民法第百二十七条以下に規定せる条件とは法律行為の効力の発生又は消滅を将来の不確定な事実の成否にかからせる法律行為の附款をいふのであつて法律行為の効力発生につき特殊の制限を附加する事を意味するものであつて当事者が任意に定めたものである事を要するものと解するのが相当である(換言すれば斯る附款をつけなければ当該法律行為は完全に其の効力を生じ得る場合である)従つて或る行為が効力を発生する為に当然必要な条件として法律の規定するものはたとえ之を法定条件とよばれることがあるとしても民法第百二十七条以下にいふ条件に該当しない」と判示しているけれ共条件とは右判決所論の如く法律行為の効力の発生又は消滅を将来の不確定な事実の成否にかからせる法律行為の附款である事については異論の無い処であるが是を本件に付考料するに農地法において農地の売買につき法定の効力発生要件として規定された県知事の許可なる事実は当に将来の不確定な事実である。

従つて当事者が任意に定めた将来の不確定な事実たる条件と何等異なる処の無い条件である。

而も民法第百二十七条以下にはその条件が当事者の任意に定めたものたると法定のものたるとの区別を設けてない。

従つて法定の条件たる知事の許可を停止条件とする法律行為たる売買契約を民法第百二十七条以下に規定する条件附法律行為とする事は当然であつて之を除外すべき法律上並其の他何等の理由も根拠も無い。

原判決所論の如く「法律上当然必要な事を約定したに止まる」ものとしても其の当然必要たる事たる県知事の許可が得られるか否かは全く不確定な将来の事実である、斯る将来の不確定な事実の成否にかからしめる法律行為は必然条件付法律行為であつて、之を民法所定の条件附法律行為から除外すべき法律上の根拠は存在しない。

原判決は民法第百二十七条以下条件附法律行為の規定を殊更に不当に制限して解釈し因つて右法条に違反したものである。

大審院大正十一年(オ)第九四号同年七月十七日判決の判例には

「官庁の許可を得る事を条件とする契約も民法規定の停止条件付法律行為に該当する」旨判示されている事はまことに至当の事である官庁の許可なる条件は法定の条件であつて任意に定めたものでない事説明を要しない処、本件知事の許可を条件とする売買契約に右判例が適用さるべき事又勿論の事である。

即ち原判決は此の判例にも違反するものである、若し原判決の解釈の如き法意が存するものとするならば必ずや民法第百二十七条以下の法条の何処かに「法定要件を条件とするものは之を除外する」旨の規定が設けらるべきであるが、斯る規定は存在しないのである。

斯くて上告人と被上告人徳永広文間に本件農地に付成立した知事の許可を停止条件とする売買契約に対しては、之を停止条件付法律行為として民法第百二十七条以下の規定が適用されるべき事は極めて明白である。

然るに被上告人広文は民法第百二十八条の禁止規定に違反して「知事の許可」なる停止条件の成否未定の間に被上告人黒瀬貞夫に本件農地を二重売却を為しこれに知事の許可を得て所有権移転登記を為し因つて上告人が知事の許可により取得すべき本件農地の所有権を害したのである。

上告人は被上告人の斯る行為の発生を察知し自己の右停止条件付権利を保全するため右二重売買契約の成立に先たち昭和二九年一月六日本件農地に付処分禁止の仮処分決定を得其の旨同月八日に登記した、然して被上告人等の二重売買契約は仮処分決定後に行われ、其れに因る所有権移転登記は右仮処分登記後の同年五月十四日に為されている。

従つて被上告人等の右二重売買に因る所有権移転登記に基く所有権の移転は仮処分権利者たる上告人に対抗出来ないものである。

右民法第百二十八条には「条件附法律行為の各当事者は条件の成否未定の間において条件の成就に因り其の行為より生ずべき相手方の利益を害する事を得ず」と規定され同法第百三十条には「条件の成就に因りて不利益を受くべき当事者が故意に其の条件の成就を妨げたるときは相手方は其の条件が成就したるものと看做す事を得」と規定されている。

被上告人広文は知事の許可なる本件停止条件の成就に因つて本件農地の所有権を上告人に移転すべき不利益を受くべき当事者であるから、其の条件たる知事の許可の成否未定の間に故意に許可を得る事を妨げた時は上告人は其の条件が成就して知事の許可を得たものと看做す事が出来る、而して被上告人は上告人との本件農地売買契約において知事の許可を申請すべき義務者であるから其の義務に反して許可申請手続をしない事は不行為に因る条件成就妨害であり、更に右農地を被上告人黒瀬に二重売却する事は積極的且究極的な条件成就妨害行為である事異論の余地の全く有り得ない事である、蓋し許可を要する売買の目的物を二重売却して不存在としたからである。

従つて其の相手方たる上告人は条件が成就して知事の許可を得たものと看做す事が出来るから本件農地の所有権は当事者間においては上告人に帰した事となる、即ち右消極的並積極的二段階の条件成就妨害の適時条件が成就したものと看做す事が出来、所有権の移転を主張し得るから、其の後に二重売買に基き知事の許可を得たとしても既に其の所有権が上告人に移転して虚無となつた目的物に付無権利者が許可を得たものであるから其の二重売買契約も知事の許可も共に無効である事自明の理である。

此の事実についても亦右

大審院大正十一年(オ)第九四号同年七月十七日判決の判例において

「官庁の許可を妨ぐる相手方に対しては許可なる条件を成就したるものと看做し得へ」き事が判示されている。

依て被上告人両名間の本件農地の二重売買契約並に之に基く知事の許可処分も又共に無効である事極めて明白なことである。

然るに原判決が上告人と被上告人広文間の本件農地売買契約を民法所定の条件付法律行為に非ずとの解釈に基き右に反する判断をした事は民法第百二十八条同第百三十条並に右大審院判例に違反したものである。

第二点 原判決は民事訴訟法上保全処分制度並に民事訴訟法第三九三条第三項及び同法第四〇九条の二第二項の各立法の趣旨に違反し保全処分事件訴訟の裁判に関する大審院並最高裁判所の判例に違反し因つて上告人を敗訴させたものである。

原判決は上告人が被上告人広文に対して本件農地に付昭和二九年一月六日処分禁止の仮処分決定を得、同月八日其の旨登記したが、其の後仮処分取消申立事件の第一審判決において右仮処分は取消され其の控訴審においても控訴棄却となり之に対する特別上告も憲法違反に非ずとの理由で棄却されたので右仮処分取消の判決は確定したので仮処分は取消された従つて被上告人両名の本件農地の売買は知事の許可を得且つ登記された以上仮処分権利者であつた上告人に対抗し得る地位にありと判示している、即ち「現在においては被上告人黒瀬貞夫(二重売買による所有権取得登記をした者)は本件農地についての所有権取得を仮処分権利者である上告人に対し対抗し得る地位にあるものといわなければならない」として上告人が右仮処分取消判決は違法の判決であるから実質的には無効のものであり、且つ有効のものとしても、保全処分事件の判決である性質上、実体的確定力の無いものであるとの上告人の主張を排斥した。

民事訴訟法第三九三条第三項には保全処分事件の判決に対しては上告を為す事を得ずと規定され同法第四〇九条の二第二項には保全処分事件の判決に対しては、憲法違反を理由とする時にのみ特に上告が出来る旨を規定してある、漸く実体権に関する判決に対しては法令違反の理由で上告が出来るとしたのに対し保全処分事件の判決に対しては法令違反の理由では上告が出来ない旨規定した法意は保全処分事件の訴訟においては実体権の存否又は得喪変更、有効無効に関する判断は許されない事を前提としているから国の最高裁判所又は第三審裁判所に迄上告して判断を求めしめる程重要視する必要が無いとしたものに由るものである。

従て仮処分取消事件の裁判においては其の被保全権利たる実体権の存否其の有効無効等についての判断は為すべきでなく専ら仮処分の理由又は其の取消の理由に付疎明が為されありや否やの判断に止まるべきである。

故に本件農地の処分禁止の仮処分の取消事件の判決において上告人の実体権の存否に付き判断を行うのみでなく、仮処分によつて保全されるべき実体権を違法の判決によつて侵害し喪失させられた場合最高裁判所に上告して之が救済を求める事が許されない現行制度下においては、其の本案たる本件訴訟の如き実体権の訴訟において、斯る実質的には違法無効な保全処分取消判決に拘束される事なく、本案訴訟の判決を以て之が救済を為さねばならない事は裁判所の憲法上、法律上、民事訴訟法上の当然の責務である。

原判決は斯る責務に違反して右上告人が適法有効に取得した本件農地の停止条件付所有権(後に条件成就と看做し得て無条件所有権となつた)を保全するに必要不可欠の仮処分を違法に取消し因つて被保全実体権を侵奪した違法無効の判決に拘束されて上告人の主張を排斥すべきであるとした事は右民事訴訟法第三九三条第三項同四〇九条の二第二項の法意に違背し保全処分事件の性質及立法精神に反する違法の判決である。

従つて又斯る原判決は左の大審院並最高裁判所の諸判例に違反する事極めて明白な事である。

(一) 大審院 昭和三年(ク)第一四〇号 昭和三年五月十二日民事部決定

「仮処分命令又は仮差押命令は其の判決を以て為されたる場合と雖も本案訴訟の訴訟物自体に関しては勿論、仮処分又は仮差押請求権に付ても又夫の所謂実体的確定力なるものを生ずる事無きものとする」

(二) 大審院 昭和一三年(オ)第一五六二号 同一四年三月二九日民事三部判決

「仮処分申請又はその異議については請求及び仮処分を必要とする理由の疏明の有無を審理すれば足り、双方の証拠を比較し請求権の存否を判断すべきでない」

(三) 大審院 昭和一七年(オ)第八五六号 同一八年三月二日民事第二部判決

「仮処分手続につき口頭弁論を開いた場合は債権者及び債務者の双方の主張並に疏明方法を審理すべきであるが、それは債権者主張の実体上の権利関係の存否の確定を目的とするものではなく債権者主張事実についての疏明があるかどうかを判断するためである」

(四) 最高裁判所 昭和二三年(オ)第一五号 昭和二四年九月一日第二小法廷判決

「特別事情に基く仮処分取消申立事件においては仮処分債務者に特別事情があるかどうかだけを審理判断すれば足り被保全権利の有無若しくはその効力の如何又は仮処分債務者の実体上の権利の有効無効若しくはその権利が被保全権利に対抗し得るものであるかどうかについて審理判断すべきでない」

(五) 最高裁判所 昭和二三年(オ)第四二号 昭和二三年一一月九日第三小法廷判決

「仮処分の取消を求める訴においては仮処分により保全せらるべき実体上の権利の存否及び仮処分の理由の有無について判断する必要はなく仮処分取消の特別事情の有無を判断すべきであり且つ之を以て足る「本件田地を返還すべき協定は県知事の許可が無いから無効である」との主張は仮処分により保全せらるべき実体上の権利に関するものであつて仮処分取消の特別事情の有無に関するものでないから仮処分取消の訴訟においてはこれについては判断を加える必要はない」

本件農地の所有権を保全する為の必要不可欠の右処分禁止の仮処分を取消した判決が違法であつて無効である事の理由は左の通りである。

(一) 其の第一審判決の理由は

(1) 知事の許可を停止条件とする本件農地売買契約は民法所定の停止条件付法律行為に該当しないから民法第百二十八条以下の規定を適用する事が出来ない

(2) 仮りに停止条件付法律行為だとしても民法第百二十八条違反は規定違反であつても無効ではない。

(3) 処分禁止の仮処分決定前に成立した契約に基くときは仮処分登記後に所有権取得の登記をしても仮処分権利者に対抗出来る従つて仮処分を維持して実体権を保全する実益が無くなつた。

斯る事実は民事訴訟法第七五六条によつて準用される同法第七四七条に規定する仮処分を取消すべき事情の変更があつた場合に相当する。

と云うにあつて何れも実体権の存否得喪を理由としたものであつて前掲民事訴訟法上保全処分制度の趣旨並に同法第三九三条第三項及び同法第四〇九条の二第二項の各立法趣旨に違反し保全処分事件訴訟の裁判に関する大審院並最高裁判所の判例に違反する違法且つ実質的には無効のものである、のみならず右判決の

(1)の理由が民法第百二十七条乃至第百三十条並に大審院大正十一年(オ)第九四号の前掲判例に違反する、違法の判断である事前述の通りであり。

(2)の理由は、民法第百二十八条の規定を同法第百三十条の規定と綜合して解釈すると特に本件の如く同法第百三十条の規定の適用を受け得る場合右百二十八条違反の行為を無効のものと解釈せざるを得ないものなるに拘らず、斯る合理的な解釈に反するものである。

(3)の理由について、斯る解釈を是認するときは民法第百七十七条の規定を基礎とする不動産物権に関する保全処分制度の法条は全く空文に帰する事となる蓋し仮差押仮処分債務者は保全処分が行われるや、保全処分から免れる為に第三者に依頼し又は共謀して、仮処分物権につき仮処分決定以前に遡つて、売買其の他の該不動産物権の得喪変更を生ぜしめる契約が成立していた事を装い之に因つて右仮処分登記の後に権利変動の登記を為し、この権利変動を以つて保全処分権利者に対抗するの手段を採るに至る事は明白であるからである。

のみならず此の判決理由は民法第百七十七条の規定にも反するものである、なんとなれば、同法案によれば、不動産物権の得喪変更は登記を為すに非ざれば第三者に対抗出来ない事になつているから仮処分登記を為す以前において該仮処分物権の得喪変更を生ぜしめる契約が成立し事実上該不動産物権を取得したとしても之を登記する迄は第三者に対抗出来ないものである、従つて仮処分登記が行われた以上は、其の後において、其の仮処分不動産物権の得喪変更の登記をしても其の登記以前に遡及し、且つ仮処分登記以前に遡及して得喪変更の事実を以つて仮処分権利者に対抗出来ないものである、にも拘らず、右(3)の理由は斯る民法第百七十七条の法条にも違反し、半ば此の法条の意図を無視する結果となるからである。

以上本件農地につき行つた処分禁止の仮処分取消事件の第一審判決は実体権並手続法上の諸規定に違反する違法の理由によるものである事明白である、従つて実質的に無効の判決である事も亦明らかである。

(二) 其の第二審判決の理由において、

(1) 第一審の右(1)の理由を支持し、県知事の許可を得る事が、農地売買の効力発生要件となつているのに本件農地の売買については知事の許可が存しないから、売買契約は未だその効力を発生するに由ない、と判示している。

(2) 仮りに県知事の許可を得る事を停止条件とする農地売買契約が民法に規定する停止条件付法律行為に該当するものとしても、停止条件付法律行為が効力を生ずるのは条件が成就したときである、然るに本件農地の売買契約については、県知事の許可という停止条件が未だ成就していないから本件上告人と被上告人広文間の本件農地売買契約は、その効力を発生していないものである。

従つて仮処分によつて保全すべき被保全権利が全然無い。

且つ被上告人等は既に本件農地につき知事の許可を得て売買に因る所有権移転登記を為したものであるから最早上告人において右被上告人両人間の右売買を否認し被上告人広文から本件農地に付所有権移転登記手続を受ける事が不能となつた。

斯る事情は民事訴訟法第七五六条によつて準用される同法第七四七条により仮処分を取消すべき事情の変更があつた場合に相当する。

というにあつた、けれ共右

(1)は右第一審判決の理由に対すると同様の理由によつて違法の判断である事は明白であり。

(2)は停止条件付法律行為の効力発生の時期について該判決は、停止条件付法律行為自体の効力発生の時期と、その条件が既に成就して、無条件完全な法律行為としての効力の発生時期とを違法に混同した結果の誤判に由来するものであつて則ち民法第百二十七条の解釈を誤つた法令違反の判断である。

民法第百二十七条には「停止条件付法律行為は条件成就の時より其の効力を生ず」と規定されているので、一見すると停止条件付法律行為自体が効力を発生する時が条件成就の時の如く錯覚し易いけれ共、それは誤りである、若しその様に解するときは同法第百二十八条以下停止条件付法律行為に関する法条が効力未発生の停止条件付法律行為を保護する事となり法律上有るべからざる事態の存する事となる。

即ち同法条の意味する所は、停止条件付法律行為自体は其の行為の成立した時に効力を生じて民法第百二十八条以下の法条によつて保護されるものであり、同法第百二十七条の規定により条件成就の時に生ずる効力は、条件が成就して無条件完全な法律行為となつたものについてのものである事は条理上肯定されるべきものである。

そうであるとするならば、本件農地売買契約が知事の許可を得る事を停止条件とする法律行為である以上は当然に民法第百二十八条乃至百三十条の規定の適用によつて保護さるべきものであり、従つて仮処分によつて保全さるべき被保全権利たる事も亦明白である。

右に違反する(2)の判断は明白に法令違反である。

右仮処分取消事件の第二審判決は以上(1)(2)の理由に因り、上告人には仮処分によつて保全すべき被保全権利無しと盲断し、然も訴訟の性質上実体権の存否得喪につき、判断してはならないのに、之に反して、仮処分によつて保全すべき実体権無しと判断し得る実体的権利の存否に関する実体的判断における違法と、訴訟手続法上の違法の判断によつて、既に被上告人等が、二重売買によつて所有権移転登記を為した以上は之を否認して被上告人から所有権移転登記を為し得る事が不能になつたとして、仮処分を取消した斯る判決が違法にして、実質的に無効なる事は誠に明白な事である。

保全処分事件訴訟においても其の被保全実体権の存否得喪の事実につき判断する事も、其の判断又は判決が実体権の存否得喪につき実体的変動を生ぜしめるものでない限度においては必ずしも之を排斥すべきでないが本件農地に対する仮処分取消事件の判決にあつては、前述の通り、実体権の存否に付違法の判断をした結果仮処分の被保全権利無しとし、更に、仮処分登記をした遙かなる後に行つた本件農地の二重売買に因る所有権移転登記によつて、最早上告人において被上告人等の売買を否認し被上告人広文から本件農地につき所有権移転登記手続を受ける事が不能になつたと称して、仮処分の効力を全く無視する判断を敢えてし、因つて上告人が仮処分によつて保全すべき知事の許可を停止条件とする停止条件付所有権を無残に侵害し抹殺し去つたのである。

(三) 上告人は斯る極めて明白な法令違反の保全処分事件の判決を以て仮処分を取消し因つて上告人が適法に有する条件付財産権を侵害した第二審判決は之に対し上告して最高裁判所の判断を受ける事が保全処分事件の判決なるが故に不能である事実からも、斯くの如き判決は憲法第廿九条違反の判決として特別上告によつて救済を求めるを妥当を思料したので御庁に特別上告をしたが上告審においては斯る判決でも憲法違反には該当せずとの理由で上告棄却となり、右第一、二審の違法にして実質的に無効な判決は一応形式的には確定した、然し上告棄却の理由は飽迄も憲法違反でないという事のみであつて法令違反については何等の判断をして無い、又すべきでない。

以上の陳述の如く本件農地の仮処分は違法且つ実質的に無効の判決によつて取消され、因つて其の被保全権利なる本件農地の所有権が違法に剥脱侵害されんとしているのであるが、之を防護救済する事の可能なものは、その被保全実体権の存否に関する本件訴訟の判決であり、此の判決を以て之を是正する以外に方法が無い、然るに原判決は之を是正し救済するの責務を尽さず、却つて之を支持したものである。(右仮処分取消判決の内容に付乙第一、二号証参照)

結論

以上を要するに原判決は実体権の存否の判断において民法第百二十七条乃至第百三十条の規定並に民法第百七十七条の各法条の解釈適用を誤つて之に違反し、且此等法条の解釈適用に関する大審院並に最高裁判所の判例に違反し、保全処分に関する訴訟に付民法第百七十七条並に民事訴訟法第三九三条第三項同第四〇九条の二第二項の各規定及び之に関する大審院並に最高裁判所の諸判例に違反した違法の判決であり、因つて上告人を敗訴させたものである。

是を破毀し然るべき御判決を求める所以である。

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